SEとして、CAD製品のプリセールスなどを担う新川和樹。前職では技術者として電子回路設計業務に携わり、現場が抱える課題への気づきから図研のSEへと転身した。CADユーザー側から提供側へ。「自分だからできること」を信じ、新川は自らの使命に向き合う。
「現場の悩みを解決する仕事がしたい」
という使命感に似た想い
大学卒業後、電子機器関連の仕事でキャリアを積みたかった新川は、複数のメーカーで設計業務を経験しエンジニアとしてさまざまな経験を積む道を選んだ。
その思惑通り、前職では大手電機メーカーでノイズ対策に関わるEMC設計業務に、産業機器メーカーで回路設計業務に携わることができた。実機検証や解析、CADを用いた回路設計など、技術者として着実に実績を積んできたが、気づいたこともあった。
さまざまな付帯作業に時間がとられ、肝心の設計業務が圧迫されていたのです。成果物の管理に不備があったり、目視による図面チェックで漏れがあったりなど、設計環境の不備が不具合を誘発していました。環境を改善すれば存在すらしない問題に、膨大な時間と手間が費やされていたのです
このような体験から新川は、日本中のあちらこちらのメーカーで、同じように非効率なことが行われているのではないか、と考えた。その気付きは、やがて「モノづくりの現場の悩みを解決する仕事がしたい」という、使命感にも似た思いにつながっていく。
社会人になって8年が経ち、技術や知識はひと通り身についた。“次の一歩”を踏み出すべく転職活動を進めた新川は、図研がSE職を募集していることを知った。
何社か電気設計関連の企業を回ったのですが、これまでと同じ開発業務では、モノづくりの課題を解決したいという自分の思いは果たせないと感じていました。図研の製品は、設計現場のさまざまな場面で活用されていることもあり、ここなら設計環境の改善に貢献する仕事ができると考え、入社を決めました
入社当時、技術者からSE職への転身には戸惑いもあった。長らく設計現場で経験を積んではいたものの、課題のヒアリングやソリューション提案といったSE業務の経験はない。お客様と会話をすることにも慣れず、特にシステム的な観点からの質問には答えに窮することも少なくなかった。
一方で、新川の武器となったのは設計業務に関する抱負な経験と知識だった。特に、実際に現場でツールを使う設計者側からの質問や要望は、的確に理解し受け止めることができた。
私自身も設計の現場で手を動かしていたので、お客様が抱えている課題は我が事のように共感できました。こちらが提示した解決策に『そうそう、それが欲しかった!』と喜んでいただけたときは、この仕事こそ自分がやりたかったことだ、と実感できましたね
前例がない設計手法を具現化し、
問題を一つひとつ解決する
図研に入社して3年目、新川はあるメーカーの大型プロジェクトに携わった。設計開発環境の最適化を目的に、設計プロセス自体を大幅に改革するもので、複数の専門チームが同時並行で稼働する大規模なものだった。
お客様側で課題となっていたのは、下流工程における設計の手戻りでした。最初に製品の基礎となる仕様を決める構想設計の段階で配慮が十分に行き届かず、開発終盤の詳細設計になって対策に追われてしまうケースがあったのです。この問題を解消することで、より効率的な設計プロセスを実現するのがプロジェクトの目的でした
専門チームのひとつが推進したのは、電気回路設計プロセスの再構築だった。構想設計の精度を高めれば、手戻りにかかる工数を削減できる。その分だけ製品の開発期間を短縮でき、より競争力の高いモノづくりが可能となる。部品や回路の要求仕様、機能、検証などの一連の設計情報を「回路ブロック」という単位でまとめ、データベースで管理することになった。
構想設計の際に過去の回路ブロックの情報を効率良く流用すれば、手戻りの少ない詳細設計を実現できます。お客様の業界では前例のなかった、画期的なプロセス改革です。しかし裏を返せば、これまでの設計のやり方を根本から見直すことになるため、設計や管理のために導入されていたツール群に、多くの改修が必要となりました
このメーカーに既に導入されていた図研の構想設計ツール『CR-8000 System Planner」も、改修すべきシステムのひとつだった。新たに回路ブロックの設計にまつわる機能を追加すべく、新川がその担当SEとなった。
電気設計分野では過去に類がない設計手法のため、他社の事例はまだありません。さらに、自分には構想設計業務の経験もなく、プロジェクト推進に必要なスキルも足りていませんでした。当初は構想設計に関する理解が追いつかず、イメージを具現化するのに苦労した覚えがあります
それまでの新川の仕事は、お客様にソリューションを提案するプリセールス活動が中心だった。扱う商材は詳細設計で用いるCADツールが中心で、構想設計や運用設計といった上流工程は未知の領域だった。
それでも、一つひとつ解決していくしかなかった。お客様の要求を受け、System Planner内で回路ブロックをどのように定義するか、回路ブロック同士をつなぐブロック設計をどのような手順で行うかなど、先輩SEたちの力を借りながら具体的な仕様に落とし込んでいった。
お客様の要望のなかには、システム的に実現できないものも含まれます。その場合、回避策を提示することになりますが、その対策が逆に作業効率を下げるものでは意味がありません。お客様がやりたいことの本質を探り、着地点を見出していきました
関係者を積極的に巻き込むことで、課題の解決に近づける
このプロジェクトの中で、新川はもうひとつの専門チームを担当していた。CADと連動して、回路図などの成果物をチェックするツールがあり、そのチェック項目に設計者の知見を組み込むカスタマイズを施すことになったのだ。システムを構築するにあたっては、実際にこのツールを使用する設計者たちの深い関与と協力が不可欠だ。
ところが、当初設計者のみなさんにはこのシステムの意義があまり浸透しておらず、何を目的として、自分たちがどう協力すべきなのか、いまひとつピンときていないようでした。こうなると、ヒアリングを重ねてもなかなか本当の課題が浮かび上がってきません
ここからどのように進めれば良いか。悩む新川の前で、顧客側のキーマンは設計者たちに向かって言葉を発した。「自分たちが使うシステム。我々のモノづくりのための設計環境はどうあるべきなのか、まずは自分たちが真剣に考えなければ」と。
その一言で、設計者のみなさんの表情が変わったのを覚えています。それからヒアリングの際にも、より深い議論ができるようになっていきました。システム構築の序盤でユーザーにいかに当事者意識を持ってもらうか。設計者はもちろんキーマンを含め、関係者を積極的に巻き込んでいくことの大切さに気づきました
結果的に、新川にとってこの一連のプロジェクトは、SEとして一回りも二回りも成長する機会となった。お客様の要求を引き出し、内容をすりあわせ、機能という具体的な形に落とし込む。その一連の流れを、身をもって経験することができた。
自分にとってはもちろん、図研としても初めての経験も多く、乗り越えるべき壁は少なくありませんでした。ですが、振り返れば「モノづくりの現場に貢献したい」という自分の思いが、ひとつの形となったと実感できるプロジェクトでした
2年にわたった大規模プロジェクトは一区切りを迎えることになったが、新川らの成果は図研の資産としても蓄積された。今回System Plannerに加えた改修は標準機能として取り込まれ、構想設計領域の新たなソリューションとなったのだ。
図研には優れた製品群があります。しかし、お客様によって抱えている課題はすべて違います。また、プロジェクトには想定外の問題もつきもの。それらを見極め、最適な施策を提供すればこそ、製品は設計現場で生きたツールになります。その結果、お客様から直接感謝の言葉をいただける。図研に来てSEをやって良かったと思っています
SEは直接的に製品の開発にはあたらない。しかし、それぞれのプロジェクトの現場で、製品に命を吹き込むのはSEだ。そして、その過程で得た知見は製品の進化として取り込まれる。新川が携わる一つひとつのプロジェクトは、やがて、あらゆるモノづくり現場の課題解決へとつながっていく可能性を秘めている。
Questions & Answers
- 入社前後で図研に対する印象は変わった?
- 入社前は国内シェアが1位ということもあり、保守的な企業かと思っていました。入社後は顧客課題や新たなソリューション創出に向けて、新製品や新機能の開発にも注力している企業だとわかりました。
- 図研の好きなところは?
- 顧客が抱えている設計現場の課題に対して、幅広い領域をカバーしている図研製品でソリューションの提供ができる点です。「設計者の役に立ちたい」という図研入社時の想いが実現できていると感じています。
- 職場にはどんな同僚・先輩・上司が多い?
- 技術的に詳しいことはもちろん、気さくな人が多いです。各SEでそれぞれ得意領域があるので、何か分からないことがあれば皆さんに気軽に質問しています。
- 学生時代の経験が役に立っていることは?
- 映画館などで接客のアルバイトをしていた経験は役に立ちました。最初はSEとしてお客様と会話することに戸惑いましたが、比較的すぐに慣れてきたのは当時の経験があったからだと思っています。
- 休日はどのように過ごしてる?
- 以前の休日はギターを弾くなどの趣味に費やしていましたが、最近は3歳の息子と毎週どこかに遊びに行っています。一緒に遊び過ぎているせいか友達だと思われているみたいです(笑)